支援総額
目標金額 3,000,000円
- 支援者
- 286人
- 募集終了日
- 2024年10月23日
演劇博物館館長・児玉竜一先生に劇作家・北條秀司についてご解説をいただきました
早稲田大学教授で、演劇博物館館長でいらっしゃる児玉竜一先生に、劇作家・北條秀司についてご解説をいただきました。
当館創立者の大谷竹次郎が、北條秀司に贈った言葉とは。
北條秀司の作品が広く愛され、再演を続けるわけとは。
そして、北條秀司スクラップブックを保存する意義とは――
ぜひご覧ください!
児玉 竜一先生(早稲田大学教授・演劇博物館館長)
北條秀司は、昭和の日本演劇史に燦然と輝く大劇作家であり、大劇場演劇の芯柱ともいうべき存在だった。
これまでに出版されている日本の演劇史は、大劇場での商業演劇にあまり大きな紙幅を割いてこなかったこともあり、演劇史の上で、それほどの存在と認識されていないと思う向きもあるかもしれない。
だが、たとえば、すでに中村哲郎『歌舞伎の近代』(2006年・岩波書店)は、50人を超える近代歌舞伎の作家を取り上げた中で、北條秀司をひときわ高く評価している。
北条秀司は劇作家として、昭和中期・後期、とりわけ戦後半世紀にわたる商業劇壇の横綱であり、わが国の戯曲史上、疑いもなく、世阿弥を初めとする十幾本かの指に、数え入れられる巨匠であった。
ぜ、世阿弥を初めとする! 雑誌「演劇界」での初出でこの一節を読んだ時には、その褒め言葉のスケールの大きさにのけぞり、と同時に深くうなずいたものだった。中村哲郎は、こうも続けている。
その幅の広さと総合力、コンスタントな筆力、或るレベルでの分かりやすい大衆性、衆人愛敬とも言うべき親和性、社会的な常識性などにおいて、河竹黙阿弥と岡本綺堂と北条秀司の三人が、明治以降における劇場作家の大柱だった。
私たちは、まず、この大きな事実を認めなくてはならない。劇作家の先生というのは、それほどに巨大なものであって、作家の書いた言葉を一字一句厳密に守りながら立体化する、という敬虔な作業を積まなくてはならないのだ。北條秀司のような、天皇とあだ名される「怖い先生」と出逢うことのできた役者たちは、今し思えば幸福だった。
だが、その北條秀司もまた、多くの怖い先輩たちに育てられて大成した。その最たるものが天下の大興行師・大谷竹次郎であった。北條秀司は、師・岡本綺堂の教えを守って、自作が舞台で上演されるようになっても、本業である箱根登山鉄道での勤務を辞めなかった。劇作一本で食べていくのは大変だ、私だって半七捕物帳のお蔭で息をついていると、天下の岡本綺堂に諭されては一言もない。だが、その覚悟を揺るがしたのが、大谷竹次郎である。
昭和14年(1939)3月1日に岡本綺堂は没した。青山斎場での葬儀の朝、兄弟子に命じられてお花の配列を確認していた北條秀司を、大谷竹次郎が呼び止めた。大谷もまた、出社に先立って俳優たちの花輪を点検するために寄ったのだった。
北條の自伝『わが歳月』(1981年・日本放送出版協会)には、こうある。
お礼の挨拶をすると、社長は「北條君」と小招ぎして、祭壇の先生の写真の前にわたしを連れて行かれた。「北條君。ぼくはあんたを有望な作者やと思てます。一つ先生の跡継ぎになるつもりで、脚本家一本になりまシェンか。先生もきっとそれを望んでおられるやろと思う」

この一言で、北條秀司は「よし。やってみよう」と心に叫ぶ。650頁を超える大著の中でも、極め付きの光景である。しかも見逃せないのは、この鬼神を哭かしむるような場面にも関わらず、北條秀司は「なりまシェンか」と、関西訛りの大谷竹次郎の口ぶりをリアルに描写するのを忘れない。言葉が、音として生きている。泣かせて、笑わせて、感動させる、北條秀司の手練手管が、一瞬の光景にも盛り込まれている。
ことのついでに言うと、北條作品の隅々にまで充溢しているのは、人物の出し入れの見事さである。一つのエピソードが終わりかけると、別な人物が出てきて、話はごく自然に別な形に重なって場面が続いてゆく。いつしか、一つの場には多層的な空気がたちこめて、劇的な雰囲気を醸成してゆく。北條作品には映画化されたものも多いが、真の味わいはやはり舞台にあると言わざるを得ないのは、この空気がたちこめる気配を、映画では味わうことが難しいからである。舞台、それもしっかりと大道具を飾り込んだ大劇場での上演でなくては、大道具、小道具、照明、音響、すべての交響楽が、俳優の技芸を生かすものとして設計された北條作品の音色は流れ出してこない。
北條秀司の代表作は枚挙に暇がない。のちのちまで再演を重ねた名作中の名作と限っただけでも、「王将」三部作、「狐と笛吹き」、「浮舟」、「末摘花」、「山鳩」、「霧の音」、「佃の渡し」、「太夫さん」、「女将」、「狐狸狐狸ばなし」、「紙屋治兵衛」、「建礼門院」、「春日局」など、空で数え挙げただけでも十指にあまる。
こうした名作たちが、どのように創造されたのか、主演俳優たちとの葛藤や格闘やいかにと、誕生秘話にも関心が向くところであるが、北條秀司には大部のメモワールが備わっている。『わが歳月』と『演劇太平記』全6巻(1985-1991・毎日新聞社)を手に取ったが最後、綺羅星のごとき名優たちとのエピソードもふんだんに、創作の裏面を余すところなく読んで堪能するはめになる。北條秀司について、きちんとした評伝が書かれるべきという声もあって、それは勿論そうなのだが、情報の緻密さといい、話題の面白さといい、どう考えても北條自身のメモワールを越えることができないのである。

なぜ、北條秀司がそれほど精密にして大部の自伝を記すことができたのかといえば、もちろん北條自身の細密な記憶もあるのだが、資料としては、作品ごとに詳細なスクラップが保存されているからなのである。自作に対する劇評を、これほど正確に記録した劇作家も少ないだろう。『北條秀司劇作史』(1974年・日本放送出版協会)は、上演時によせられた劇評を記録として660頁にわたって掲載した、類例のない書物である。「劇壇にとび出した頃は劇評を神の如く敬い、座右に於いて改作の資料にしようと、保存をはじめたわけである」と、スクラップを始めた契機が記されている。戦後、雑誌『演劇界』を主宰した利倉幸一と、同郷のよしみをこえた信頼関係で結ばれていたことも、戦後の演劇界を考える上での大きな要素だろう。
北條秀司のスクラップは膨大であるが、心臓部にあたる自作関係のものは、松竹大谷図書館に集中している。デジタル画面でニュースを読むことが主流になりつつある今日から想像もつかないかもしれないが、毎日の新聞紙面を克明に切り取って、スクラップを作っていた個人や、機関は、かつて膨大に存在した。どの図書館も、その貴重なスクラップの山を、どう扱ったらいいのか、どう公開していけばいいのか、膨大な著作権処理に気が遠くなりながら、腕をこまねいている段階だろう。デジタル化して廃棄、などという人は資料に縁なき衆生で、現物のスクラップの迫力を前にしては、とてもそんなことは言えない。デジタル化して断捨離、という今日的正論?は、数十年のちの人びとから「どうして現物を残しておいてくれなかったんだ」と、必ず恨まれるであろう。断捨離というヨガ哲学に由来する言葉を、先人の思いのこもったモノを粗末に扱うことへの免罪符として広めた人びとには、必ずや仏罰があたるであろう。とはいえ、新聞の切り抜きに糊を貼ったもの、などというのは劣化の一途をたどる。そこで、丁寧な保存が必要というわけである。
北條秀司が生み出した作品への思いは、その芝居を客席から楽しんだ多くの観客の思いにも通じる。そこに共感してくださる皆様の、ご支援をお願い申し上げる次第である。
リターン
3,000円+システム利用料

A|【税控除対象】お気持ち応援コース(3千円)
■サンクスメール
■松竹大谷図書館HPへのお名前掲載(ご希望の方のみ)
■報告書(2025年4月末に送信予定)
■寄付受領書・控除証明書(2025年1月末に発送予定)
- 申込数
- 80
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2025年4月
5,000円+システム利用料

B|北條秀司作品台本デザインオリジナル文庫本カバー
北條秀司作品『井伊大老』『浮舟』の台本の表紙をデザインに使用したオリジナル文庫本カバー(非売品) をお届けいたします。
■サンクスメール
■松竹大谷図書館HPへのお名前掲載(ご希望の方のみ)
■報告書(2025年4月末に送信予定)
■北條秀司作品台本デザインオリジナル文庫本カバー
-----
※ 本コースへのご支援は税控除の対象となりませんのでご注意ください
- 申込数
- 55
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2025年4月
3,000円+システム利用料

A|【税控除対象】お気持ち応援コース(3千円)
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5,000円+システム利用料

B|北條秀司作品台本デザインオリジナル文庫本カバー
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