ミュージカルのダンス

　ミュージカルは歌、芝居、ダンスの三要素があります。ミュージカルを始めた頃は、歌と芝居が中心で、私が歌にちょっとした振りをつけていました。

　昔話や童話をミュージカルにしていた時代から、完全にオリジナル作品に転換したエポック的な作品は「雨がきらい」です。「雨がきらい」とそれに続く「不思議なプレゼント」は、CD、ビデオ、楽譜が出版され、日本全国で取り上げられるようになったプチミュージカルの初期の代表作です。この名前からお分かりになる方もいらっしゃると思いますが、これはジーンケリーの名作「雨に唄えば」に対するオマージュなのです。アメリカンミュージカルのダンスと言えばタップダンス。

　夏の暑い中、体育館に板をひいて、子どもたちと一緒に、靴の裏にタイルをくっつけ、タップの練習をしました。いい思い出です。

　このタップダンスのミュージカルの伝統を壊したのは、ウエストサイドストーリーの振り付け、ジェロームロビンスです。当時の舞台人はみんな度肝を抜かれました。有名な話ですが、ウエストサイドストーリーの様なミュージカルを日本でも作りたいと組織されたのが、ジャニーズです。

　「不思議なプレゼント」以降の作品では、タップダンスではない、新しいダンスを模索し、当時の振り付けの先生にもっとダンスのレベルを上げるにはどうすればいいかと相談したところ、それはクラッシックバレエの基礎レッスンをするしかないということで、バレエのレッスンが練習の中に入ってくるようになりました。

　現在の振り付けのM氏は、グレアムテクニックというモダンダンスのマーサー・グレアムの創り出した独特の身のこなし、内面の充実を基礎にレッスンを組み立てて下さっています。

　「海色のインクに恋して」は特攻隊のお話が出てくるので、とても暗いものだと感じられている方も多いと思いますが、実は子どもたちが登場する場面には、コミカルで楽しく、可愛らしいダンスが多くあります。一言でいえばキュート。M氏の振りは、個人の表現とアンサンブルのバランスが絶妙なのです。クラッシックバレエでもない、ジャズダンスでもない、モダンダンスでもない独特の世界をお楽しみください。

動きは抑制されているが内面は動いている。