私の運命を変えた猫たちの話（その1）

 

今回は私が保護猫活動に関わるきっかけになったお話です。

 

今から5年ほど前までは、私は全く猫に興味がありませんでした。

 

動物は好きでしたが、どちらかというと猫よりも犬の方が好きだったくらいです。

 

そんなある日、仕事帰りに立ち寄るお店の駐車場で、数匹の野良猫を見かけました。

 

とは言っても、私が住んでいる地域には野良猫が多く、特段珍しい光景ではありません。

 

こんなところにも猫が住んでいるんだな、くらいの感覚でした。

 

私の猫に対する認識はその程度でしたが、ある日駐車場で車に乗ろうとしていた私の足元に1匹のキジトラ猫が擦り寄ってきました。

 

餌をあげたことは一度もないのに、なぜこの猫が私に近づいてきたのかは今でも分かりません。

 

猫が近くに居ては車が出せませんから、仕方なく私は少し離れた場所へその猫を誘導して、急いで車を出発させました。

 

そして、その次の日も例の猫は私の車の近くに居て、車に乗ろうとする私に擦り寄ってきたのです。

 

私は困りながらも猫を離れた場所へ誘導してから、急いで車を発進させました。

 

これから毎日のように猫に待ち伏せされたら、ちょっと厄介なことになります。

 

それに、駐車場の車が多いところに猫がいるのは、事故の危険性もありますし何とか猫を回避する方法を考えなくてはなりません。

 

そこで、例の猫にはあらかじめ離れた場所で何か食べさせておき、車に近寄らせないことにしました。

 

さっそく私は近所のスーパーへ猫用のおやつを買いに行き、例の猫対策として持ち歩くようにしたのです。

 

そして次の日、当たり前のように例の猫はやってきました。

 

私は少し離れた場所から猫の存在に気付いていたので、車とは逆方向の物陰へおびき寄せて用意していたおやつを例の猫に食べさせました。

 

例の猫はお腹が空いていたのか、あっという間に小袋1つを平らげてしまったので、私はもう1袋分を置いて車に急ぎました。

 

途中で振り返ってみると、例の猫はまだ食べているようだったので、安心して車を出すことができました。

 

こんなやり取りがあり、私は例の猫に毎日のようにおやつをあげるようになりました。

 

しかし、野良猫に餌づけをするのは、あまり褒められたことではありません。

 

私は後ろめたさを感じながらも、人目の無い場所で例の猫におやつをあげ続けていました。

 

そうした日々を続けているうち、例の猫と一緒にもう1匹の猫がやってくるようになりました。

 

一緒にやってきたのは身体の大きな黒猫で、それほど人馴れしていないのか私の足元に擦り寄ってくることはありません。

 

ただ、お腹は空いているようで、少し離れた場所からじっとこちらの様子を窺っていました。

 

私は仕方なく例の猫と黒猫が一緒に食べられるように、少し多めのおやつを置いてあげました。

 

その後、猫たちから少し離れて振り返ってみると、仲良く2匹でおやつを食べているのが目に入りました。

 

一緒にご飯を食べるくらいだしあの子たちは親子か兄妹なのかな、と微笑ましい気持ちになりながら、私は家へ帰りました。

 

この頃から私は積極的に2匹へおやつをあげるようになったのです。

 

そして例の猫はキジトラ柄だったので「トラちゃん」、一緒にいた黒猫には「クロちゃん」と名前を付けることにしました。

 

依然として野良猫へ餌をあげることに引け目を感じてはいましたが、トラちゃんとクロちゃんに対する愛着は深まっていく一方でした。

 

こうしてトラちゃんとクロちゃんにおやつをあげる日々が続いたのですが、ついに猫へ本格的に餌づけする人が現れました。

 

猫用のご飯とお水を入れた綺麗なプラスチックの容器が、猫が隠れて食べられそうな物陰に並べて置いてあったのを見つけたのです。

 

トラちゃんは愛嬌があったので私以外にも可愛がっている人がいるのは知っていましたが、私を含めどの人もちょっとしたおやつを置いていく程度でした。

 

しかし、今回見つけた猫用のご飯とお水はなかなかに手が込んでいて、猫の扱いに慣れている感じがしました。

 

どんな人が猫のために置いてくれたのかは分かりませんが、これならトラちゃんやクロちゃんがご飯に困ることはないでしょう。

 

それからも、私はマイペースにトラちゃんとクロちゃんにおやつをあげる毎日を続けていたのです。
（続く）