松尾芭蕉の研究者であった夫、濱 森太郎の遺された原稿を世に出したい

松尾芭蕉の研究者であった夫、濱 森太郎の遺された原稿を世に出したい

支援総額

2,033,000

目標金額 1,200,000円

支援者
218人
募集終了日
2022年2月28日

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2022年02月11日 17:39

わたしの気持ち、伝えます(森太郎の教え子より)

第一目標を達成して喜んでいた先週末、森太郎のかつての教え子である森三和子さんから一通の手紙をいただきました。三和子さんは少し前から三重大学出版会のメンバーとして働いてくれており、今回の書籍づくりでもイラストレーターとして活躍してくれています。手紙には、わたしも知らなかった事実が書かれていました。今回、彼女からの許可のもと、掲載させていただきます。

 

______

 

 濱森太郎先生・濱千春さま   わたしの気持ち、伝えます    

森 三和子(濱先生の教え子)

 

 それが届いたのは夏の終わりでした。

「おもしろいのが入ってたぞ。」

と、夫が手渡したのは、懐かしい濱先生からの

葉書でした。

 

 2020年春、わたしは教職を早期退職しました。家族が独立したので、今後は自分のために時間を使いたくなったからです。日の当たる時間に家にいることがわたしの楽しみでした。濱先生にはその旨を年賀状でお伝えしてありました。

 

 書面には三重大学出版会の編集者として働かないかというお誘いが書かれていました。わたしは躊躇しました。退職と引き換えに得た自分だけの時間を手放したくなかったからです。声のかかった非常勤講師の口を固辞したのも同じ理由でした。一晩考えて御断りの返事を書こうとあらためて葉書を読みました。すると一読した時には読み飛ばしていた記述に気づいたのです。

文末に、

(代筆にて失礼します)

(妻ケイタイ ○○○ □□□ △△△△)

とありました。

『代筆とはどういう事なのだろう』

いぶかしく思い、わたしは返事をしたためる前に《妻ケイタイ》に連絡を入れたのでした。

 

 濱先生は電話口に出てこられました。お声を聞けばそれとわかるわたしの知っている森太郎先生でした。聞けば先生は大きな病を抱えられておられました。妻千春さんとまさに懸命に闘っておられました。濱先生は「自分のかわりに出版会で働いてほしい。」と言われましたが、わたしは「濱先生が居ないところで働くつもりはない。先生が居てくださるならお手伝いする」と申し上げました。すると先生は「わかった。」と言われ、千春さんに電話を替わられました。

「わたしが濱森太郎を必ず出版会に復帰させます。ですからそのときはよろしくお願いします。」

 千春さんの強い覚悟のこもった言葉を聞いて、わたしもひとつの決心をしていました。

 

 九月の末。

千春さんに教えられたとおりに三重大学総合研究棟3階の出版会事務室を訪れました。先任の事務員さんとあいさつをしていると廊下に人の気配。扉をあけてみるとエレベーターからこちらに向かってまっすぐ進んでくる電動車いす。そして背後にたくさんの荷物を持った女性の姿。

20年ぶりに見る濱先生は身体こそ弱られていましたが、車いすの勢いに以前と変わらぬバイタリティを感じました。

取り寄せていただいたお弁当を頂戴しながらたくさんのお話をしました。まずはこの日初めてお会いした千春さんに、わたしと濱先生の出会いやら、大学卒業後の半生などを聞いていただきました。

 

わたしは濱先生のゼミ生でした。

大学3年生になってまもなく実家の家業が傾いて一家が離散することになりました。義務教育の年齢だった末の妹を引き取り、姉妹3人で暮らしていかなくてはならなくなりました。困ったのは住居探し。わけありで学生の身分。契約までこぎつくのは容易でありませんでした。困り果てて濱先生の研究室へ。当時、家族の話を他人にしたのは後にも先にも濱先生だけでした。先生は静かに聴いてくださり、ほとんどわたしに質問することもなく、「わかりました。」とおっしゃって、借家を一軒おさえてくれたのでした。

離散生活のしんどさはその後も続きましたが、わたしたち姉妹が今、食べて生きることができるのは、あのとき親身にしてくださった濱先生の存在が大きいと感じています。20歳になりたての学生だったわたしは、濱先生の姿を通じて、人間に対するゆるぎない信頼を獲得したように思えてなりません。

 

その先生が今わたしを必要としてくださる。

わたしはやらなくてはならない。

こう確信したのは、食後のシュークリームをほおばりながら、濱先生が次のように語られるのを聞いたからでした。

夢だった三重大学出版会を設立して20年になること。20年間続けてきたこと。『日本修士論文賞』を継続していく意義。大学で使用する学生用教科書を作成する大切さ・・・。

今後の経営の見通しを一通り説明されたあと、先生はわたしの年令を尋ね、

「じゃあ、あと15年は働いてもらえるね。」

と、にっこりされたのでした。出版会に寄せる濱先生の熱情をわたしはこの日知りました。

 

 あの頃のわたしは濱先生が渾身の力を振り絞って出勤されていたのに気付くことができませんでした。先生と一緒に働けたのはわずか半月だったのです。

 最後の出勤となった日、先生はホームページの編集作業をわたしに教えようと準備をされていました。しかし、ページ自体に入れず難儀されていました。いつも朗らかな先生がこわい顔で画面に向き合って。コンピューターに通じておられた先生です。背中から口惜しさがひしひしと伝わってきました。結局お教えいただくことはかなわず、これが出版会で先生を拝見する最後となってしまいました。

 

 再会から3ヶ月後、濱先生は向こうの世界に旅立ってしまわれました。葬儀が終わるや否や、濱先生が憑依したかのような千春さんの執筆生活が始まりました。その上彼女は残された出版会の業務も亡き夫に代わって引き受けることになりました。会社経営の課題は山積しています。それでも彼女はひとつずつ前に進もうとされています。

 

 濱先生が亡くなってからもう一年経ちました。しかし以前よりずっとわたしは濱先生を身近に感じています。わたしを出版会に呼び寄せ、本づくりの喜びを教えてくれました。今は小さな会社三重大学出版会を女性3人で切り盛りしています。濱先生が大切にされてきたこの会社を少しでも長く存続できるように努めることがわたしにできる唯一の恩返しなのだと思っています。

 

 濱先生。

 どこまでやれるかわからないけれど、

 ずっと見守っていてくださいね。

 

 

リターン

3,000


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『芭蕉の花咲く庭』送付コース

・お礼のお手紙をお送りします。
・完成した書籍1冊をお送りします。

申込数
116
在庫数
制限なし
発送完了予定月
2022年10月

5,000


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『芭蕉の花咲く庭』+既刊セット送付コース

・お礼のお手紙をお送りします。
・完成した書籍1冊をお送りします。
・濱 森太郎の既刊を2冊お送りします。

申込数
33
在庫数
67
発送完了予定月
2022年10月

3,000


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『芭蕉の花咲く庭』送付コース

・お礼のお手紙をお送りします。
・完成した書籍1冊をお送りします。

申込数
116
在庫数
制限なし
発送完了予定月
2022年10月

5,000


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『芭蕉の花咲く庭』+既刊セット送付コース

・お礼のお手紙をお送りします。
・完成した書籍1冊をお送りします。
・濱 森太郎の既刊を2冊お送りします。

申込数
33
在庫数
67
発送完了予定月
2022年10月
1 ~ 1/ 8

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