インターネット望遠鏡ネットワーク(ITP)「あれこれ」Ⅰでは、このプロジェクト立ち上げの発端とインターネット望遠鏡ネットワーク構築に伴うソフト面での苦労話を紹介しました。「あれこれ」Ⅱでは、ネットワーク構築のハード面での問題を紹介することにします。

 

インターネット望遠鏡はネットワーク経由で操作するものだから、遠隔地に設置する場合も研究室棟の屋上に設置する場合も、その作業内容はほとんど差がないはずである、というのがITPの構想を思い立ったときの考えでした。しかし、常時望遠鏡の維持管理に当たってもらえる人が近くにいない遠隔地に望遠鏡を実際に設置するとなると、屋上に設置する場合には考慮する必要のない様々な問題に直面することが明らかになりました。解決すべき問題は幾つかありましたがその代表的なものは、急な雨に対する対応です。

 

雨に対しては、望遠鏡の操作画面にログインするときに現地の気象状況が表示されるようにすることで、遠くの観測者も望遠鏡を設置してある地域の気象状況を知ることができるので一応の対策とることは可能ですが、それだけでは急な雨に対しては十分ではありません。準備作業の中で急な雨対策として最初に提案されたのは、望遠鏡とその制御装置一式を半球形のプラスチックドームに収容する方式でした。全てをプラスチック製のドームに収容すれば、近くに維持管理に当たる人がいなくても雨に対する心配はなくなります。

 

試作品を作って試した結果この場合天体像のゆがみが大きく、残念ながらこの案は採用にいたりませんでした。次に提案された案が、ピラミッド型のガラスドームで上半分を覆われたドーム内に、望遠鏡と制御システムを収納するものです。最終的にこの案に落ち着いたわけですが、この場合も天体からの光がガラスを通過することによる像の劣化は避けられません。そこでどんなガラスを使用すれば天体像への影響が小さくなるかが問題になり、ガラス関係の研究者のアドバイスを受けたりしながらいろいろ試した結果、ガラスの耐久性と像の劣化への影響を考慮して、窓ガラスに使用されている普通のガラスを使うことになりました。

 

試作品を作って天体観測を行った結果、まずサブ望遠鏡の画像にはほとんど影響が見られないこと、主望遠鏡の像にはガラスによる劣化が残ることは避けられないけれど、教育用に利用という目的の範囲では劣化の程度は許容範囲であろうと判断しました。試作品を兼ねた府中の第1号インターネット望遠鏡と、管理者が近くにいないニューヨークの第2号インターネット望遠鏡は、このピラミッド型ガラスドームを使用しています。

 

インターネット望遠鏡ネットワークに関して、幾つかの大学でその紹介を兼ねた講演をしていますが、天文関係の方から「望遠鏡をガラスドームで包むとは、理解できない・・・クレージィーだ」という指摘がありました。この指摘がまったくの正論であることを認めた上で、これに対する私の答えは「ITPの趣旨から考えたとき、これでも十分に目的を達せられると思う」でした。

 

その後、開閉式ドームを自前で開発できたので、ニューヨークの望遠鏡を除く他のインターネット望遠鏡(府中望遠鏡とニューヨーク望遠鏡の後に設置した望遠鏡)は、近くに管理してもらう人がいますので全て開閉式ドームを採用しています。ただし、今回復旧を目指しているミラノの望遠鏡は、その設置に協力してもらったブレラ天文台(ミラノ市:国立天文台)のスライド式開閉ドームを借りることができましたので、その中(自前の開閉式ドームではなく)に望遠鏡と制御装置一式が収容されています。下の写真はミラノの望遠鏡が収容されているスライド式開閉ドームです。

 

 

一方、近くに望遠鏡を管理する人のいないニューヨークの望遠鏡は、今でもピラミッド型のガラスドームを使用し続けています。数年前ニューヨークをハリケーンが襲ったときには、強風で飛ばされてきた小枝などがガラスドームを破損しないかを、遠く離れた日本で心配していたものです。万一ガラスが破損した場合に備えて、ピラミッドドーム用のガラス板を余分に持って行ってありますが、幸いにしてこの10年余りの間それを使用せざるを得ない事態は発生していません。

 

ハード面の苦労は、その他にも望遠鏡設置場所での停電に対する対応などいろいろありますが、当初想定していなかった問題に一つ一つ対処し、その後それらの対応の経験を活かして少しずつ改良することで、トラブルは少なくなってきています。そんな中で発生した深刻な問題が、落雷によるミラノ望遠鏡の故障です。クラウドファンディングで皆様からのご支援を得て、ミラノの望遠鏡を是非とも復旧させたいと願っています。ご協力をおねがい致します。

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