寄付総額
目標金額 15,000,000円
- 寄付者
- 1,002人
- 募集終了日
- 2021年9月30日
【対談#1 後編】外科医 里井壯平先生とともに
東北大学の古川 徹です。昨日、寄付総額が目標の1500万円を達成することができました。これまでご寄付、応援くださった皆さま、本当にありがとうございます。
今回も里井先生との対談で、前回のつづきの後編となります。(前編はこちらから。)今回のプロジェクトと、今後私たちが目指していくことについて、お話をさせていただきました。改めて、里井先生には貴重な機会をいただき、感謝申し上げます。ぜひ、ご一読いただければ幸いです。
後編 目次
− 改めて、今回古川先生が行う研究は、膵臓がんの遺伝子変異を大規模に調べ、そこから早期発見や治療効果を予測することができるものを探索していく研究です。この研究について、期待されることなどについて教えてください。
古川:膵臓がんに限らず、がんがどのように発生して進行していくかを明らかにしないと、どうやって診断をするか、どのように治療をするか、その手段が編み出せません。「敵を知らなければ、どうやって攻めるかわからない」のは研究も同じです。
まず膵臓がんがどのようにして発生して進行するかの機序、メカニズムを明らかにするのが研究の大きなテーマになっています。これは昔から変わっていません。もともと、病気がどのように発生して、どのように進行していくかを明らかにするために、病理学そのものが17世紀からはじまりました。そういった学問の流れがあり、現時点でがんは遺伝子がおかしくなって発生することがわかってきています。
遺伝子がどういう風におかしくなるか調べることは、1970年代初頭に遺伝子配列を明らかにする方法が開発されて以来進められてきましたが、2008年〜2009年に次世代型シーケンサーが開発され画期的な進歩を遂げました。
私はその時期は東京にいたのですが、2009年、次世代型シーケンサーにすぐにアクセスできる立場にありまして、その時からがんの遺伝子変異を網羅的に調べるという研究手法で研究を続けてきました。
古川:膵臓がんの遺伝子変異の研究は、物量でまさる欧米がどんどん進めてきています。私は日本にいる研究者として、日本で多い膵臓の腫瘍、たとえば膵管内乳頭粘液性腫瘍の遺伝子解析を世界でいち早く行ったということもありました。そのような研究の流れがあり、現時点では膵臓がんの遺伝子変異はある程度わかっています。
ところが、早期の膵臓がんがどういった遺伝子変異をもっているかは、ほとんど分かっていないのです。最初に話がありましたように、膵臓がんは見つかった時点でほとんど進行しています。進行しているのがほとんどですので、早期で見つかる膵臓がんは非常に少ないのです。そのため、解析する材料そのものを得ることができないということになります。
ところが日本には、膵臓の非常に微小な変化をとらえて、早期の膵臓がんを見つけることができる優れた技術を持っている内科の先生が多くいます。我々はそのような内科の先生方、外科の先生方とチームを組んで、世界で非常に稀とされている早期の膵臓がん症例を多く集めることができています。これは世界に類を見ないコホートであり、それを解析することで、早期の膵臓がんにどういった変化がおこっているかを明らかにすることができます。
これは世界でも非常に先駆的な研究になっていて、ぜひ迅速に進めたいと思っています。よって、この研究は日本の診断力・治療力で成り立っている研究、というところに非常に特色があるのです。
里井:古川先生の行われている研究は、膵臓がん全体から見た時に、今まで最大の懸念であった「早期膵臓がんの発見」につながります。膵臓がんの治療成績改善のためには、難しいですが近道であり、最大の効率性をもって成し遂げられる方法の1つと考えています。
古川:もう一つ、がんの個別化治療というところは、東北大学主導の研究で里井先生にも非常にご尽力いただきました。手術前に化学療法を行うことにより手術後の患者さんの予後がよくなるということが臨床試験で判明した研究です。その研究成果から、現在は、膵臓がんの患者さんは手術前に化学療法をするのが標準治療とされています。これは多施設の共同研究者の協力の賜物で、里井先生含めて、日本の力で得られた成果です。
我々病理学者が化学療法の後に切除された膵臓がんの組織を調べて見てみると、本当によく化学療法が効いている患者さんと、ほとんど効いていない患者さんがいます。ただ、なぜ効いたのか、なぜ効かなかったのか、が全くわかっていません。
古川:そこを明らかにすることにより、こういった患者さんであれば化学療法がよく効く、こういった患者さんだとあまり効かない、などがわかるようになるはずです。バイオプシー(膵臓の組織をとる)を行い、患者さんのゲノム異常を調べることで、それをもって化学療法が効く・効かないというのをあらかじめ予測して、効く方にはより効くような方法を、効かない方には別の方法を考える、ということができます。
患者さんが副作用で苦しむことも少なくし、また非常に効率のよい治療を進めることにより、患者さんの膵臓がんを究極的には治すようにするというのが研究の目標になっています。
里井:治療が奏功するかどうかを予測できるということは、個別化治療を効率的に行えるという面で非常に重要です。治療効果が期待できる患者さんはそのまま治療を継続して手術を行う、効果が期待できない患者さんは化学療法の内容を変え、さらなる遺伝子異常を突き止め、それに合うような治療を行っていくということで、効率的な個別化医療を導入できます。
手術できる患者さんのみならず、手術できないと考えられる患者さんに対しても、膵臓がんの患者さん全体に、治療の有効性を予想できる因子があれば極めて有効です。早期に化学療法をスイッチしたり、放射線治療を入れたり、免疫療法を入れたり、効率的に医療を展開できると考えています。
− 本研究はどのようなペースで進んでいく見込みでしょうか?
古川:まずは、早期膵臓がん、あるいは化学療法の効果があった膵臓がんにどういった遺伝子変異があるかを調べるという研究になっています。これをさらに症例を増やし拡張すること、さらに解析する研究手法を増やし、より多角的に解析することで、真の膵臓がんの早期診断のバイオマーカー、あるいは化学療法の効果を予測するバイオマーカーに行き着くことができると考えています。
現在の検体を解析するのは、2023年3月を目標とさせていただいていますが、現時点でのクラウドファンディングの状況をみるともう少し加速できると私は考えています。目標の1500万円を超えて、さらに資金を募ることができれば、多角的な解析の方にも、もっと迅速に向かうことができると考えています。
少なくとも5年くらいのスパンで、早期膵臓がんの診断ができる、あるいは化学療法の効果がある人たちを選別することができる、そういったところまで進みたいと考えています。
里井:ぜひ多額の資金を獲得していただいて、50例のみならずもう少し多数の患者さんで、特に個別化医療の方に関しましては、より多くの患者さんのデータを分析していただければと考えています。
− 膵臓がんという難題に立ち向かうために、先生方をはじめ国内外の多くの研究者が研究を進めています。先生方が目指す未来と、多くの研究から垣間見えてくる将来像がありましたら合わせてご紹介ください。
古川:「がんは増えている」ということがよく言われます。5大がんというのがあり、一般的にいわれるのが肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がんです。これらの中で、肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がんは、患者数が頭打ちか、だんだん少なくなってきています。ところが膵臓がんだけは、どんどん増えてきています。
最初にお話があったように圧倒的に予後が悪く、5年生存率は8%です。10%を切っているがんは、他にありません。肺がんでも5年生存率は30〜40%になっています。ですから、今取り残された状態になっている膵臓がんを、予後を倍以上、やはり50%くらいにはしないと、我々としては本当に患者さんを治したというふうには、とても言える状態ではないと考えています。
患者さんが膵臓がんになられても、膵臓がんでも治るんだ、と社会的にも思ってもらえるようなレベルにし、研究レベルもそこに合わせていかないと、現在の膵臓がん治療を加速させることはできないのでは、と思っています。
里井:実際、膵臓がんは2〜3cmの大きな状態で見つかることが多いのが現状です。今回の古川先生の研究が臨床応用され、早期発見の患者さんが増えて、効率的な個別化治療が導入できれば膵癌治療の世界も大きく変わってくると思います。
今、100名の膵臓がんの患者さんがいらっしゃったら、手術で取り切れる患者さんは、我々のデータでだいたい25名、4分の1くらいです。その数を少しでも増やし、膵臓がん全体の5年生存率50%を目標に膵癌治療を行っていきたいと思います。
− 先生方が最近注目されている研究成果などはございますか?
古川:いかに効率よく診断するか、早期に診断できるかということと、膵臓がんにきく薬をつくることです。
診断については日本の内視鏡の先生方の力が非常に大きく、診断をどうやって一般化していくかが1つの大きな流れです。加えて、膵臓がんになりやすい方をなんとかセレクトして、そういう方々を集中的にスクリーニングすることで、これから発生してくるであろう膵臓がんを早期の段階で発見しよう、というスクリーニングプロジェクトがございます。
膵臓がんを治療する薬を開発する、というところはどうしても欧米が先行しています。
例えば、膵臓がんではKRASという遺伝子の異常が90%くらいにみつかりますが、そのKRAS異常を直接叩けるような薬を開発しようという研究があります。これは過去20〜30年ずっとやられているが、現時点ではなかなかうまくいっていないところです。ただ、どんどん挑戦していかないと、やはり膵臓がんの予後を改善することはできません。
あとは個別化医療をどんどん進めていくことです。現在日本ではがんゲノム医療が進められています。これは個別化医療を進めようという1つのイニシアチブになっています。膵臓がんにも当てはめ、どんどん有用なマーカーを見つけ、さらに個別化治療できるようになっていくと思います。
里井:古川先生からほとんどおっしゃっていただいたのですが...
臨床的には、日本の高齢化社会(世界最速の高齢化)の問題があります。これから膵臓がんの患者さんの多くが80歳以上になるので、どう治療していくかは重要な課題になります。実際、化学療法にも手術にも脆弱な状態ですので、臨床医としてそれらの患者さんに対してどういった形でアプローチしていくかが大事だと感じています。
腹膜転移膵癌に関しましては、播種の検体から、どういうマーカーが発現していればその治療が効きやすいかを調べています。まだ少数例の検討ですが、マーカーが見つかりそうなので、もう少し患者数を増やして検討していきたいと考えています。
− 今後の膵臓がんの研究にも、注目していきたいと思います。本日は、ありがとうございました。
古川:7月2日から始めて、9月30日まで残り20日。ネクストゴールとして2000万円を目指し、挑戦を続けていきます。さらなる研究資金をご寄付いただき、この研究を大きくしていきたいと考えています。皆さまのご寄付をぜひお願いできればと思います。よろしくお願いいたします。
里井:膵臓がんの早期発見と、個別化治療を行うためのマーカーの同定、古川先生が行っているこの研究は非常に重要と考えられます。この2つの目的が成し遂げられれば、膵臓がんの治療において大きな進歩になり、日本のみならず世界中の多くの患者さんに恩恵を与える可能性があると思います。
このような研究を計画され、実行されようとしている古川先生の挑戦を応援するとともに、多くの皆様のご支援ならびにご協力を心からお願いする次第でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
ギフト
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3,000円コース
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10,000円コース
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