散逸している明治・大正期の彩色木版口絵を後世に残したい!

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山田奈々子氏 『木版口絵の魅力』 （2009年中国新聞連載）

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5.
鏑木清方は、清純でさわやかな美人画を描いた日本画家として知られる。しかし他のどの画家よりも多く、木版口絵を描いた画家であったことはあまり知られていない。
「のどの渇きは水を飲めば治るが、心の潤いには美術が必要である」という信念を持っていた清方。文学からイメージを膨らませるのを容易にするのが口絵であり、大衆がスムーズに物語へ入って行ける手助けををする。その口絵制作に従事するのを喜びとして修行していた。
「展覧会に出展する絵や、床の間に掛かる掛け物など何処が面白くて描くのだろう」と記している。大手の出版社から口絵の依頼が来るのを心待ちにしていたのである。
念願叶って『文芸倶楽部』や『新小説』でデビューを果たした清方は、万人の趣味に合う画調からたちまち人気画家となった。清方の描く口絵には、良い彫師、摺師がついたため品質が良く、本も雑誌も好評だった。「口絵が付かない本は売れない」という現象を巻き起こしたのも、清方の画風の魅力が口絵の華麗さをあおり立てたためであった。
清方はやがて自分の絵について、線に頼る版画よりも肉筆画に向いていることに気付く。四十歳で口絵の仕事をやめ、展覧会用の日本画制作に専念。成功を収めた。だが、清方が晩年になって提唱した「卓上芸術」は、口絵サイズの日本画に戻るものであった。

6.
出版される文芸本のほとんどに口絵がついていた明治時代の終わりごろ、木版口絵は、日本文学と伝統美術を愛する人に好まれた。明治期に輸入された技術の石版口絵は、西洋の影響を受けた文学に多く付けられたので、新しい物が空きな人々に人気があった。
後に美術品として愛好されるとはだれも思わなかったのだろう。口絵自体の耐久性は考えられなかった。
和紙に刷られた木版口絵は、本に折り込みで挿入された。折り目こそあるが、一枚絵として残存する。本の中に収納されていたため、日焼けして色調を失うこともなく、百年たった現在、アンティークとして出版当時の鮮やかな色のままよみがえった。
一方、酸性紙に刷られた石版口絵は、柔らかい水彩画を思わせる色調と洋風の画調によって当時、高い人気を博した。しかし、折り目は切り目となって、一枚絵の状態を保つのは困難だった。
本物の浮世絵を買い求めることは、残存する数の上でも価格の点でも難しい。かといって、複製版画を集めるのにはいささか抵抗がある。創作版画や新版画の類も、年代を経ていないにもかかわらず結構な値段がする。
それに対し、口絵は折り目が付いていることを認めれば、一流画家の手になったオリジナル版画が手ごろな値段で手に入る。
「折り目がついてる」ことを鑑定の目安として、明治・大正の文芸作品が生んだオリジナルの木版口絵をコレクターアイテムとして楽しんではいかがでしょう。

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山田奈々子氏が携わり Honolulu Museum of Art（ハワイ） で "Illustrating theModern Novel: The Art of Mizuno Toshikata"が開催されます。期間は2017.4.13-2017.6.18 です。 詳細はこちら。

武内桂舟画　

「月下之美人」文芸倶楽部　2巻7編、博文館、明治29年6月