散逸している明治・大正期の彩色木版口絵を後世に残したい!

山田奈々子氏 『木版口絵の魅力』 （2009年中国新聞連載）

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7.
口絵に接する機会はさまざまである。版画商を訪ねると、浮世絵版画や現代版画の片隅に、一枚物口絵が並べてある。あるいは古書店で、明治・大正発行の本に挿入されたまま、古本として売られている物もある。
文芸誌『文芸倶楽部』は、発刊した毎年十六冊の雑誌に木版口絵を付けた。明治二十八年から二十年間、口絵の総数二百九十五枚を発行している。常時二万部の販売数を満たすため、版も幾組か彫り、摺師も手分けして電光石化の勢いで摺ったという。
それに比べ、そのころの単行本は初版二百部か四百部といった数だったので、口絵も念入りに作られ、品質の良いものが多い。だが、残っている口絵の数は少ない。泉鏡花の作品に鏑木清方が描いた口絵などは希少価値もあって法外な値段がついている。
コレクターとなってまず最初は、何枚かの口絵の図柄を見ているうちにお気に入りの画家が定まっていく。その画家の作品を集め始めることになるだろう。
今の市場価格は武内桂舟、水野年方、富岡永洗、梶田半古といった口絵の全盛期に活躍した画家の作品で大体一枚一万円前後だ。
口絵の数は少ないが万人向けする図柄を描いた尾形月耕で二万円、最高値は何といっても鏑木清方で三万円以上というのが、目安であろう。
コレクターも本格化してくると、版画商以外に古本市、インターネットを通してのトレードによって、収集しているようである。

8. 【最終回】
浮世絵の高い芸術性を最初に認めたのは、日本ではなく十九世紀末のヨーロッパだったように、口絵も海外での評価が先んじている。
口絵収集で知られるコレクションには、ニューヨークのメトロポリタン美術館にカーテイス・コレクション、ワシントンのスミソニアン研究所のサックレー美術館にロバート・ムラー・コレクションがある。
また、ハワイのホノルルアカデミーは「南太平洋」の作家ジェームス・ミッチナー浮世絵コレクションとともに、フィル・ローチ氏が二〇〇二年に寄贈した口絵コレクションを収蔵。常時入れ替え、展示されている。
最近ハワイで美術館の並びにある白人家族の経営する版画店を訪れる機会があった。扱っている口絵の量は神田の版画店と同じぐらいで、仕入れ先は驚いたことにヨーロッパだそうだ。店主の話によれば「口絵は評価され、売れていますよ」とのことだった。
海外の版画業者のカタログには、浮世絵と並んで早くから口絵が項目を設けて載せられていた。折り目は本物の口絵としての見分けのために使われても商品としてのマイナス要素とはなっていない。
値段の決め手は画家の技量、高感度、保存状態。鏑木清方だけが断トツに高いということはない。外国人は絵がきれいで自分の感覚にあえば、素直に認めて購入するのだ。
口絵展も開かれたことのない日本。欧米では口絵の価値がすでに認められているのに。

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木版口絵に関する研究で知られ、つい先日弊社より『増補改訂 木版口絵総覧』を出版した山田奈々子氏の【連載】『木版口絵の魅力』（2009年中国新聞連載）でした。さらなる氏の研究については、是非以下の書籍でお確かめください。

〔山田奈々子氏 作品集〕
『増補改訂 木版口絵総覧』
『美人画口絵歳時記』
『口絵名作物語集』
『武内桂舟口絵集』
『梶田半古口絵集 『薄氷遺稿』についても』
 

水野年方画　

「外科室」泉鏡花著　文芸倶楽部　1巻6編　博文館　明治28年6月