科学が紐解く、日本刀の強さの秘密:「曲がらず」の解明
寄付総額
目標金額 600,000円
- 寄付者
- 66人
- 募集終了日
- 2024年2月2日
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- 現在
- 756,000円
- 支援者
- 90人
- 残り
- 25日
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#地域文化
- 現在
- 7,415,000円
- 支援者
- 370人
- 残り
- 50日
国循がXの謎に挑む!遺伝子変異と不妊症の関連を明らかにしたい
#医療・福祉
- 現在
- 18,345,000円
- 寄付者
- 328人
- 残り
- 10日
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#地域文化
- 総計
- 342人
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#子ども・教育
- 総計
- 7人
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#国際協力
- 総計
- 10人
広島の考古資料を後世に伝えたい ー考古学研究室開設60周年記念
#地域文化
- 現在
- 4,585,000円
- 寄付者
- 202人
- 残り
- 13日
プロジェクト本文
皆様のご支援により,目標金額60万円を達成することができました。多くの方々のお力添えに御礼申し上げます。皆様のご支援により,本研究で必要となるシミュレーションソフトウェアのの使用料を準備することができました。
このソフトウェアを利用することで日本刀の分析が可能になりましたが,より多くの日本刀の分析を行うために必要となる最新のワークステーション購入のため,ネクストゴール150万円に挑戦をしたいと思います。残り期間はごく僅かとなっておりますが,引き続き応援とご支援のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
以下,少し詳しい説明です。
日本刀のように長く複雑な構造を持つ物体を分析するためには,分析に長い時間が必要になります。現状研究室で保有しているワークステーション(シミュレーションなどで利用する高性能・高信頼性のパソコン)は購入から5年以上経過しているため,最新の機種と比べると性能がかなり劣っています。また,そろそろ故障なども心配です。
現状のワークステーションでは,簡易的に再現した日本刀の分析にも数日を要しました。今回の研究では,より精密に日本刀の形状や内部の構造,鋼の強さなどの様々な条件を変えて,数多の日本刀の分析を行います。最新のワークステーションを用いることができれば,一振りの日本刀の分析時間が短くなり,それだけ数多くの日本刀の分析が可能となります。より多くの知見を得るために,最新のワークステーションの導入費用としてネクストゴール150万円を設定しました。
仮にネクストゴールの金額を達成できなかった場合、ご支援いただいた資金で実施できる範囲にて、実施はさせていただく予定でおります。
更新履歴
2023年12月19日 ページの前半(日本刀の拡大写真の後)に「「折れず曲がらず」の対極にある日本刀の形状」を追記しました。本研究の概要に相当しますので,まずはこちらをご覧下さい。
☆本クラウドファンディングについて,朝日新聞に記事が掲載されました。
★日本刀の強さに着目した研究について,NHKワールドより取材を受けました。1月23日よりWeb上で視聴できます。
☆ページ冒頭に目標金額達成の御礼とネクストゴールについて追記しました。(2024年2月1日)
〜日本刀の科学的研究に関するクラウドファンディングの紹介動画〜
寄附方法についてのご案内
▼自己紹介
ページをご覧いただきありがとうございます。岐阜大学教育学部技術教育講座の中田隼矢と申します。岐阜大学にて、金属材料に関する研究室を運営しております。
私は2022年3〜4月にかけて日本刀の科学的研究のためにクラウドファンディング「日本刀の製法解明へ。日本刀を作り出す鋼の強さの評価研究にご支援を」を実施し,多くのご支援をいただきました。この研究では,日本刀内から採取した微小な試験片を取りだし,刀身内で複雑に変化する引張特性の分布を評価しました。この成果の一部は,今年9月の日本金属学会で発表をしています。この研究の目的は主に二つあります。一つ目は,製法,特に熱処理条件を推定するための指標とすること,二つ目は,日本刀の刀身の強さを科学的に評価するためです。今回の研究は,後者の観点で発展を目指したものです。
2022年3〜4月に実施したクラウドファンディング「日本刀の製法解明へ。日本刀を作り出す鋼の強さの評価研究にご支援を」
「活動報告」に本プロジェクトに関わる情報(研究の詳細な情報や解説動画など)を随時追加していきますので,宜しければ「活動報告」もご覧下さい。
▼プロジェクトを立ち上げたきっかけ
鉄の中に美を生み出す唯一無二の存在・日本刀
現在の日本刀は,主に美術工芸品として扱われています。本来は武器である日本刀が美術工芸品として評価されている理由は,その姿(形状)や鉄の中にある複雑な文様(刃文,地金)による唯一無二の美しさがあります。これらの美しさは,日本刀の武器としての性能を向上させるための独特の製法によって生まれたものですが,古い時代の詳細な製法は失われており,現在では完全に同じものを作刀できないとされています。写真は岐阜大学教育学部附属郷土博物館所蔵の刀となり,戦国時代頃に岐阜(美濃)で作刀されたものと思われるものです。刃文は刃の白くなった部分となり,鉄(地鉄)全体にも複雑な文様が生じています。
刀(岐阜大学教育学部附属郷土博物館所蔵)
研究概要「折れず曲がらず」の対極にある日本刀の形状(2023年12月19日追記)
本研究は,日本刀の刀身の曲げ強さに注目した研究となり,主な分析対象は刀身の形状(姿)と曲げに対する強さの関係となります。日本刀の様に細く長い物体は形状的にとても弱いため,曲がりやすく,そして折れやすいです。日本刀の性質は「折れず・曲がらず・よく斬れる」と評されますが,実は「折れず・曲がらず」の対極にある形状が日本刀です。加えて,後述する素材となる鋼の特性の観点からも「折れず・曲がらず(よく斬れる)」は同時には実現できないはずの特性です。では,どの様にして日本刀は「折れず・曲がらず・よく斬れる」を実現しているのでしょうか?本研究では,この「曲がらず」について,コンピュータ内で日本刀を仮想的に再現し(シミュレーション),日本刀の強さの秘密に迫りたいと考えています。
日本刀の刀身の姿は時代や地域によって大きく変化し,この変化は武器としての扱い方の変化に対応している,ということはよく知られています。工学的に考えると,形状の僅かな変化すらも刀身の強さに影響する可能性があります。ならば,前述の姿の大きな変化だけではなく,我々が単なる作風の違いと捉えてしまっている僅かな姿の違いすらも,実は刀匠が明確な意図を持って造り上げたかもしれない,と個人的に感じています。
そこで,本研究のシミュレーションでも用いる有限要素法と呼ばれる分析方法を用いて,簡易的な分析を行いました。日本刀の様な細長い物体に力を掛けた時,どの位変形するかを分析しました。寸法は日本刀に近いものとし,厚さを6mmと8mmの2条件に変えた分析を行いました。斬るを模して先端に上向きの力を掛けた時に生じる反りは,厚さ6mでは4mm,厚さ8mmでは3mmと極小さいものでした。しかし,側面に力を掛けた場合は厚さ6mmで100mm,厚さ8mmで43mmと大きな反りが生じ,厚さが僅か2mm異なるだけで2倍以上の変形が生じました(もう少し詳細な分析結果は,活動報告に掲載予定です)。実際の日本刀は刃先や背面(棟)が薄くなるため,形状的にはもっと弱くなります。長さや幅も曲げに対する強さに大きく影響します。また,鋼の性質を考慮すると,大きな変形が生じる前に折れてしまうと思います。おそらく刀匠達は,少しでも高いレベルで「折れにくく・曲がりにくく・よく斬れる」を実現するため,刃先の鋭利さや実用的な重量バランスを満たしながら,できるだけ曲がりにくく・折れにくい形状を模索しながら作刀を続けたのではないでしょうか。我々が思っている以上に武器として作刀されていた時代の日本刀の形状は緻密に計算されたものなのかもしれません。本研究の目的の一つは,刀匠達が目指した日本刀の姿を探ることでもあります。
有限要素法で分析した形状と力の掛け方。長さ700mm,幅30mmとし,厚さは6mmと8mmの2通りで分析。先端に掛けた力は約10kgです。
力を掛けた時の変形の様子。上図「斬る」では横から見た様子,下図「側面で受ける」では上から見た様子です。
物体の形状と強さの関係を扱う学問分野は材料力学と呼ばれ,実は日本刀に対する基礎的な検討は既に行われています(例えば,臺丸谷政志,『日本刀の科学』,SBクリエイティブ)。しかし,これらの研究では鋼の強さや日本刀の複雑な内部構造は考慮されていません。例えば,硬い鋼を用いれば同じ形状・同じ力を掛けたとしても曲がりにくくなります。しかし,硬い鋼は壊れやすくなるため,日本刀は部位によって鋼の強さを緻密に変えています。日本刀は,形状・鋼の強さ・構造が三位一体となることで「折れにくく・曲がりにくく・よく斬れる」を実現しています。今回の研究では,日本刀の強さの秘密である三位一体となった条件「形状・鋼の強さ・構造」の全ての要素を考慮した条件で刀身の曲げに対する強さを詳細に分析します。おそらく,日本刀に対するこのような分析は世界で初めての試みとなります。なぜなら,この分析を行うためには,日本刀へと鍛え上げられた鋼の強さを正確に把握する必要があります。従前の研究ではこの強さが不明だったため,工学的に日本刀の強さを定量的に分析することが不可能でしたが,この強さを前回のクラウドファンディングで明らかにすることができました。前回の研究知見を発展させて,未だ分析しきれていない日本刀の強さの一端に迫りたいと考えています。
具体的な分析は,日本刀の形状として刃長や反り,重ねなどの各条件,鋼の強さ,構造(造り込み)について,種々の条件を変化させ,それぞれが刀身の曲げ強さに対してどの様に影響するかを評価する予定です。詳細はページ下部の「具体的な解析方法」に記載をしています。分析条件の案を表にまとめたものを示します。
シュミレーションで分析を予定している条件案
以降は,前回のクラウドファンディングで評価した鋼の強さや構造の観点も交えながら,本研究について詳しく説明した内容となります。一部重複した説明もありますが,研究の詳細を把握されたい場合はご覧下さい。
「折れず曲がらずよく切れる」を実現するための製法
日本刀の性質は「折れず曲がらずよく切れる」と形容されることが多いです。この三つの特性を材料科学の観点で分析すると「折れず」と「曲がらずよく切れる」に分類でき,科学的には両者は相反する性質となるため,本来は両立できません。刀身が曲がらないためには硬い素材でできている必要があり,よく切れるためにも硬い刃が必要となります。しかし,金属は硬くなるほど変形できる量が減少し,日本刀の刃のように著しく硬い鋼(日本刀の素材は鉄の中に炭素が混ざった鋼です)は,大きな力が加わるとほとんど変形をせずに壊れてしまいます。日本刀は,独特の製法を組み合わせることにより,「折れず曲がらずよく切れる」を完全にではありませんが高い水準で実現しています。この独特の製法が日本刀の美術性にも深く関わっています。
鋼を徹底的に鍛え上げることで美しさも兼ね備えていった日本刀
現在まで伝わる日本刀の製法において,特に重要となる工程は「折返し鍛錬」,「造込み」,「焼入れ」となります。「折り返し鍛錬」によって日本刀の素材となる鋼を徹底的に鍛え上げ,粘り強い(=壊れにくい)鋼としています。「造込み」によって,外側は硬質な鋼,内側は粘り強さを重視した鋼(もしくは鉄)とすることで,刃物としての切れ味と耐久性(曲がりにくく,折れにくい)の素地をつくり,「焼入れ」によってそれを仕上げます。
金属は硬くなるほど壊れやすくなりますが(お煎餅やガラスのような状態),これらの工程を組み合わせることによって,「折れず曲がらずよく切れる」という本来は両立できないはずの特性を実現しています。そして,日本刀に美術品としての価値を具備している刃文は『焼入れ』,地金の複雑な文様は『折り返し鍛錬』によって生じます。日本刀の本来の用途は武器であり,武器としての性能を向上させるための特殊な製法によって美しさも兼ね備えることになった世界的にも極めて特異な刀剣です。造込みの一例と日本刀断面の硬さ分布を図に示します。
硬軟の鋼を組み合わせる造り込みの例。中央部のイラストが造り込みの模式図となり,白が硬い鋼,黄色がやや硬い鋼,赤が柔らかい鋼となります。(Wikipedia,Japanese swordsmithing,https://en.wikipedia.org/wiki/Japanese_swordsmithingより一部改変して抜粋,2023/11/22閲覧)
日本刀断面のビッカース硬さ分布
古の刀匠が目指した日本刀を科学する
では,これらの製法さえ実施すれば,「折れず曲がらずよく切れる」を実現できる日本刀となるのでしょうか?前述の三つの製法についても,作り方によって特性が変化します。材料力学的には,刀身が長く重ね(厚さ)が薄くなるほど壊れやすくなりますので,形状の影響も無視できません。突くと斬るでは刀身に掛かる負荷も変わってきます。武器としての扱いやすさを考慮すると,重量バランスも重要です。全ての要素を完璧に満たすことはできませんので,用途に合わせて全体のバランスを調整していたのではないでしょうか。例えば,当地・美濃伝の日本刀が武器として高い評価を得ているのは,当時の刀匠は武器としての実用性を重視した製法をとっていたためだろうと推定されます。本研究では,古の刀匠が目指した日本刀を「日本刀の強さ」という観点で分析をしたいと考えています。
▼プロジェクトの内容
本プロジェクトの目的・日本刀の曲げ強さの評価
今回の研究では,日本刀の「折れず曲がらずよく切れる」の「曲がらず」に対応する刀身の曲げ強さ(曲がりにくさ)に及ぼす刀身の形状(長さ,厚さ,反り,樋など)や鋼の強さと構造(造込み)の関係をシミュレーションで分析したいと考えています。具体的には,有限要素法(FEM)と呼ばれるコンピュータを用いた解析手法によって,コンピュータ内に日本刀を再現します。仮想空間内の日本刀に様々な力を掛けることで,曲がりにくさを分析します(日本刀の構造解析(弾塑性解析))。仮想空間内での分析となりますので,日本刀を損傷させることなく,古刀も含めて様々な条件の日本刀を模して,評価することができます。
FEMでは様々な現象を仮想的に再現することができますが,分析する上で最も重要となるのが再現する現象のモデル化(数式化)です。日本刀の曲がりにくさを再現するために必要となる情報は,日本刀へと鍛え上げられた鋼の「引張特性」となります。これまで日本刀内の詳細な引張特性の分布はほぼ調べられておらず,この解析は不可能でした。前回のクラウドファンディングでは,この刀身内の引張特性を初めて評価することができましたので,この成果を用いてFEMに発展をさせます。
前回のクラウドファンディングの成果:日本刀へと鍛え上げられた鋼の引張特性
前回のクラウドファンディングでは,皆様からの寄附金を用いて刀匠より提供いただいた現代刀の一部から小さな試験片を取りだし,引張試験を実施しました。引張試験は金属材料の強さを調べるための最も基本的な試験です。現在,機械や構造物を製作する際は,引張試験などで評価した金属の強さをもとに安全に運用できる設計を行います。本研究では,日本刀に対しても同様の検討を適用したいと考えています。
日本刀は「折れず曲がらずよく切れる」を実現するために,内部の強さを緻密に変えています。以下は,クラウドファンディングで実施した実験結果の一例です。この研究では,刀身内の大きく強さが変わっていると思われる場所から微小な試験片を取りだし,各部の引張特性をおそらく世界で初めて評価しました。試験片の写真,日本刀断面から見た試験片の採取場所,そして引張試験結果の一例を図に示します。引張試験の結果は,論文としてはまだ未発表なため,一部の部位の結果のみを簡易的(クロスヘッド変位)に現した結果となります。
微小試験片と10円硬貨
日本刀断面から観察した試験片の採取位置
日本刀内から採取した試験片の引張試験結果の一例
刀身の曲げに対する強さ
刀身の曲げに対する強さは,定性的には(おおざっぱな傾向は),
「刀身が長くなるほど,薄くなるほど,反りが大きくなるほど,樋(側面に掘られた溝)があるほど,鋼が軟らかくなるほど,鋼が軟らかい領域が増えるほど」,
曲がりやすくなります。樋の有無による刀身強度の変化など,科学的に調査されている要素も一部ありますが,それぞれの要素がどの程度変わることで,どの程度強さに影響するかを定量的に分析した例は,少なくとも理工系の学術論文や専門書ではほぼ存在しないようです。本研究では,これらを幅広く網羅的に評価したいと考えています。ただ,本研究の目的は,特定の日本刀の強さに優劣を付けることではなく,各種条件の変化が刀身の曲げ強さにどの様に影響をするのか,刀匠がどの様な工夫により曲げ強さの向上を実現してきたのかを分析することです。
刀身の強さから古の刀匠が目指した刀剣を読み解く
これまで,多くの専門家が様々な観点で日本刀を科学的に分析しています。近代科学による分析は1900年代初頭の東京帝国大学の冶金学者・俵国一博士が礎を築き,さらに遡れば新々刀の祖となった江戸時代後期の水心子正秀刀匠は現在の科学に通じる視点で古刀の研究に取り組んでいたとされます。100年を超える研究の蓄積があるにも関わらず,日本刀の製法について未だ不明な点が残されているのは,構造の複雑さが要因の一つだろうと思われます。この中で日本刀の強さに着目して研究を行う理由は二つあります。
一つは,種々の日本刀の差異を比較しやすいことです。工学的な観点で強さを評価することで,刀剣の特徴を一定のルールで数値化し,比較しやすくなります。二つ目は,その日本刀が武器としての実用性を考慮して作刀されたのならば,作刀した刀匠の意図を最も汲み取りやすい指標が強さだろうと推定したためです。武器としての実用性は,「折れず曲がらずよく切れる」という基本的な特性だけではなく,扱いやすさも考慮するならば長さや反り,重量や重心位置も重要です。斬ると突くでは刀身に掛かる負荷の状態も変わります。全ての特性を完全に満たすことはできませんので,用途に合わせて製法を調整(最適化)し,目標とする日本刀を作刀していたのでは?と思います。従前の研究で評価されてきた鋼の組織や硬さも最適化された製法によって得られたものですが,刀匠が目指したものは様々な強さの鋼を組み合わさることで実現できる日本刀としての強さです。FEMを活用して強さという観点で日本刀を分析することができれば,刀匠が目指した日本刀の姿(性質),そしてそれを実現するために制御された鋼の特性:なぜその特性の鋼が必要だったのか?,なぜその構造(造込み)や姿(形状)が必要だったのか?,などの刀匠が目指した日本刀を作り出すための方法・「設計思想」の理解に繋げたいと考えています。本研究は日本刀の製法を直接明らかにするものではありませんが,今となっては直接対話することができない古の刀匠が追い求めたものを理解する手掛かりになる得るものであり,日本刀への理解を深める重要な知見になると期待しています。
設計思想とは?
例えば,南北朝時代の太刀はそれ以前のものと比べて刀身が長く,身幅(刀身の幅)が広がっていますが,重ね(厚さ)は薄くなっています。これは,刀身の長さや身幅拡大に伴う重量の増加を重ねの減少で緩和するという一つの設計思想です。一方で,外観から識別できる変化は気付きやすいですが,鋼の特性まで工夫が及んでいたとしたら,外観の情報だけで気付くことは難しいです。例えば,形状変化により刀身の曲げ強度が低下したとしても,鋼の硬さ上昇や硬い部位の体積を増やすことによって補う解決方法もあるかもしれません。あるいは,外観も含めて個々の変化は僅かだったとしても,多数の変化を重ねることによって,日本刀の特性に大きな影響を与える方法もあるかもしれません。本研究では,日本刀の曲げ強度に注目することによって,古の刀匠達が目指した日本刀とそれを実現するための創意工夫の一端を明らかにしたいと考えています。
具体的な解析方法
本研究では,刀身の曲げ強度に関わる日本刀の様々な因子を分析します(三次元構造解析)。計画している解析条件の案を下表に示します。各分析対象について少なくとも3条件分析することとし,平均的な条件に対して値を大きく上げる/下げる,を基本とします。例えば,刃長ならば,短い・中間・長い,です。値を大きく変えるのは,僅かな変化では差を確認しにくい可能性があるためです。まずは,やや大きめに条件を変え,大凡の傾向を確認します。可能ならば,それぞれの中間や僅かに変化した条件でも分析をしたいと考えています。また,五箇伝の典型的な形状も分析をしたいです。ただ,下表以外の条件を分析するためには,新規でワークステーション(解析用のハイスペックPC)の導入が必要になる可能性が高いと考えています。詳細は,寄附金の使途の欄に記載をしています。
有限要素法(FEM)を用いた日本刀の曲げ強度を評価するための分析条件案
解析に使用するソフトウェアは有限要素解析ソフトウェアのAbaqusとなります。本ソフトの利用はサブスクのような形態となり,使用期間分のライセンス料を支払うことになります。今回の目標金額は全てAbaqusのライセンス料となります(但し,クラウドファンディング実施の手数料は除く)。なお,本ソフトについては,博士号を取得するための研究でも利用しており,使用方法について習熟しています。そのため,ソフトの利用料金さえ確保できれば,分析を実施できる状態です。
現在は本ソフトを利用できない状況ですが,以前試験的に実施した解析例を2点示します。この結果は簡易的な解析となりますので,刀身内の複雑な強度分布は設定していませんが(刀身全体が同じ強さ),日本刀の様な長い物体に負荷を掛けたときの様子はおおよそ解析できていると思われます。ここでは,「斬る」を模擬し硬い物体に物打ち付近を押し付けた状態,「突く」を模擬して硬い物体に切先を押し付けた状態です。色が赤くなるほど大きな力(相当応力)が掛かっている部分となり,この部位で破壊が生じる可能性があります。突きによる負荷は棟側に集中しています。本結果から,切先の棟焼きは,突きに対応するための工夫である可能性がある,のような分析が可能(切先の棟側を硬くすれば大きな力にも耐えることができるため)です。
なお,本研究の目的は,特定の日本刀の強度の優劣を決めることではありませんので,実在の日本刀を直接解析する予定はありません(形状などは参考にします)。ただ,お好きな日本刀を分析するリターンを設けていますしています。詳細は,ページ下部のリターンに関する記載を確認下さい。
FEMで分析した日本刀で硬い物質を斬った/突いたときに刀身内に生じる負荷。青が負荷が小さく,赤くなるほど負荷が大きいです。
本研究の課題と解決方法
現在評価できている日本刀の引張特性は,現代刀と作刀時期が不明な日本刀(造り込みは甲伏せ)を評価した結果に限られ,古刀や甲伏せ以外の製法の日本刀の評価はできていません。これについは,過去の研究成果を活用することで補完できると考えています。従来の日本刀の強さに関する研究は,主にビッカース硬さ試験による評価となり,金属組織もあわせて評価されているケースが多いです。古刀の特徴として鋼の差が指摘されていますが,鋼であることに変わりありません。そのため,金属組織と硬さ試験の結果を交えることで,現代刀の引張特性から古刀の引張特性もおおよそ類推することができます。甲伏せ以外の造り込みについても,まずは過去の知見で得られている金属組織と硬さから引張特性を推定して,評価を行うことになります。また,日本刀の特徴として熱処理に伴って生じる残留応力があります。先行研究で刀身内の残留応力分布は評価されており,この結果をFEMに取り込んで評価することが可能です。
古刀の鋼や甲伏せ以外の構造に対して引張試験を実施できれば,さらに高い精度で評価することが可能です。一方で,実物がなくとも分析できるのがFEMの大きなメリットとなります。例えば,現在では様々な機械を開発する際はFEM内で機械を再現し,実物を作ることなく性能を評価し,設計の改善などが行われています。今回の研究は,現在の機械製品の研究開発で行われているプロセスを日本刀にも適用することになります。
ご支援いただいた寄附の具体的な使途
今回のクラウドファンディングの目標金額は60万円となり,目標金額に達した場合のみ,皆様からご支援いただいた寄附をいただけるAll or Nothing方式となります。寄附金の使途などをまとめたものを下表に示します。目標金額の内,約10万円が手数料としてREADYFOR及び大学に納めることになり,研究費として大学から支給される金額は約50万円となります。この50万円の使途は,全てFEMソフトウェアAbaqusの利用料金(6ヶ月分,並列計算オプション込み)として支出する予定です。
60万円以上のご支援をいただいた場合は,約150万円までのご支援の場合はFEMで使用するワークステーション(シミュレーションなどで用いる高性能PC)の購入に充てる予定です。研究室でワークステーションを1台保有していますが,購入から5年以上経過しており,現行機種と比べて性能がかなり劣ることから,新しいものに入れ替えたいと考えています。特に本研究においては,大容量メモリを搭載でき,計算速度が速い最新の機種に入れ替えることが出来れば,分析に要する時間を大幅に短縮できます。一つの計算に要する時間を短縮することができれば,それだけ多くの結果を得ることができます。
150万円を上回るご支援をいただけた場合は,日本刀に関わる新たな研究費用に充てたいと考えています。計画している研究内容は,1)玉鋼の特性評価,前回及び今回の研究ではカバーし切れていない日本刀の破壊に関する評価として,2)日本刀内の鋼の破壊靱性評価,3)FEMによる日本刀の「折れず」の評価を行います。また,4)高速で変形させたときの引張試験と本データを用いた日本刀の「曲げ強度」の評価です。
寄附金の具体的な使途
リターンについて
ご支援いただいた場合のリターンの詳細につきましては,以下のように予定をしています。
研究成果の簡易報告書
A4で数ページ程度にまとめた成果の概要となります。個々の細かい分析結果までは掲載していませんが,成果の主たる内容は十分に理解いただける報告書です。
研究成果の報告書
簡易報告書では省略した細かい分析結果なども含めた報告書となります。
報告書の解説動画の配信
報告書の内容を解説する動画をYouTubeで配信します。
日本刀に関する講義動画
前回のクラウドファンディングで配信した動画の再配信となります(全く同じ動画です)。前回のクラウドファンディングでは,終了後に存在を知っていただき,「支援をしたかった,動画も視聴したかった」という声をいただいたため,同じ講義動画を再配信致します。
お好きな日本刀一振りのFEMによる曲げ強度解析結果のご報告
研究内容に記載しましたとおり,本研究では特定の日本刀の強さを分析する予定はございません。これは,「曲げ強度」という側面だけで,日本刀に序列を付けるようなことに繋がることは避けたかったためです。とは言え,お好きな日本刀について詳しく知りたい,というニーズもあるかと思い,このリターンを設定致しました。ただ,鋼の強さや断面の形状などに仮定が入るなど,いくつかの注意事項などがございます。詳細は「活動報告」に掲載をしますので,そちらをよくご確認下さい。
お好きな日本刀三振りのFEMによる曲げ強度解析結果のご報告
上記と同じ内容で,解析対象の日本刀が三振りとなります。
クラウドファンディングを行う理由
この20年,国から国立大学に投入される資金は大幅に減少しています。それに伴い、大学から教員に配分される教育・研究費(校費)も大幅に削減され,校費のみで機材や分析ソフトが必要となる理工系の研究を遂行するのは,ほぼ不可能な状況です。大学は教育機関という役割も担っていますが,学生への教育環境すら十分なものを提供することが難しくなっています(特に理系の研究室では,研究と教育が一体となっており,研究環境の悪化は教育環境の悪化に直結します)。この対策として,公的機関や民間の財団などから研究資金を獲得することが求められていますが,これらは競争的資金と呼ばれ,申請したからといって確実に支給されるものではありません。資金の種類にもよりますが採択される割合は高くとも3割程度となり,ほとんどの場合これを下回る採択率です。私の場合は,純粋な工学研究については外部からの助成金や共同研究によって綱渡り的に継続できていますが,日本刀を研究するための研究費獲得は未だ達成できておりません。
日本刀に関する工学的な研究については,あまり検討されていない領域も残っており,目新しい応用的な研究だけではなく,基礎的な知見を重ねることが製法も含めた日本刀の理解に繋がるだろうと考えています。ただ,基礎的な研究であるがゆえに研究費を獲得しにくいという状況にあります(以前の国立大学ならば,このような研究は大学(国)から支給される研究費で研究が行えていたようです。国立大学は約20年前に独立行政法人化(国立大学法人)され,これ以降,国からの交付金が減額され続けており,前述の様な状況となっています)。
現在も日本刀を研究するために公的な研究費を申請し審査結果を待っている最中ですが,採択される可能性はあまり高くないだろうと思っております。前回のクラウドファンディングにおける皆様のご支援のおかげで,ようやく日本刀の研究を開始することができました。規模が小さくとも,途切れることなく日本刀の研究を続けたいと思い,最小限の予算で再度クラウドファンディングを実施した次第です。なお,今回のテーマは,申請中の研究費の内容とは重複はしません。本テーマは学術的な要素はあまり高くはありませんが,日本刀の武器としての側面を考えるのならば必要不可欠な検討だと考えています。重ねてのクラウドファンディングとなり大変厚かましい限りではございますが,ご支援並びに情報の拡散にお力添え賜りますと幸甚です。何卒よろしくお願い申し上げます。
税制上の優遇措置について
岐阜大学へのご寄附については、税制上の優遇措置が受けられます。
寄附金領収書の発行日とお手元に郵送される予定月
なお、寄附金領収書はREADYFOR株式会社を通じて寄附金が岐阜大学に入金された日付で発行いたします。岐阜大学への入金は募集終了の翌々月(2024年4月)になりますので、税制上の優遇措置は2024年が対象年となります。ご注意ください。寄附金領収書の郵送は2024年5月頃を予定しております。
個人住民税(県民税・市町村民税)の寄附金税額控除とは、地方自治体や一定の団体に対して2,000円以上の寄附金を支払った場合に、寄附をした翌年の個人住民税額が軽減される制度です。控除を受けるには、毎年1月1日から12月31日までに支払った寄附について、翌年3月15日までに所得税の確定申告書に必要事項を記載し、支出した寄附に関する領収書等を添付し、税務署へ提出してください。
所得税の確定申告を行わない場合は、住民税の申告書に寄附に関する領収書等を添付し、3月15日までにお住まいの市町村に提出して下さい。
<個人の皆さま>
■所得税(所得控除)
寄附金額が年間2,000円を超える分について、所得控除を受けることができます。
寄附金額 - 2,000円 = 所得控除額
(控除対象となる寄附金の上限額は、当該年分の総所得金額の40%です)
■住民税
本学を「寄附金税額控除対象法人等」として指定している都道府県・市区町村にお住まいの寄附者様
の皆様は、所得控除に加えて、翌年の個人住民税が軽減されます。控除対象の地方自治体については
お住まいの各市町村にお尋ね下さい。
(寄附金額 - 2,000円) × 4~10% = 住民税控除額
(控除対象となる寄附金の上限額は、当該年分の総所得金額の30%です)
※上記の計算式の4~10%について
・都道府県が指定した寄附金は4%
・市区町村が指定した寄附金は6%(都道府県と市区町村双方が指定した寄附金の場合は10%)
<法人様>
寄附金の全額を損金算入することができます。
ご留意事項
▽ご寄附の前に、利用規約を必ずご一読ください。
▽ご寄附に関するご質問は、こちらをご覧ください。
▽ご寄附完了時に「応援コメント」としていただいたメッセージは、本プロジェクトのPRのために利用させていただく場合がございます。あらかじめご承知おきください。
▽本プロジェクトのギフトのうち、【お名前掲載】に関するギフトの条件詳細については、こちらのページの「●命名権、メッセージの掲載その他これに類するリターン」をご確認ください。
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- プロジェクト実行責任者:
- 中田 隼矢(岐阜大学 教育学部技術教育講座 准教授)
- プロジェクト実施完了日:
- 2025年6月30日
プロジェクト概要と集めた資金の使途
日本刀の曲げ強度をコンピュータを用いたシミュレーション(FEM)によって分析するための研究資金として用います。目標金額の60万円までは分析で必要となるソフトウェアの利用費用,目標金額を上回り150万円程度までご支援いただけた場合はFEMで必要となるワークステーションの購入,150万円を上回るご支援をいただけた場合は玉鋼の分析,日本刀中の鋼の破壊靱性評価などに用います。
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プロフィール
2017年10月より岐阜大学 教育学部技術教育講座・准教授。金属材料に関する研究室を主宰。専門は材料強度学となり,主に鉄鋼材料の変形や破壊の評価などに取り組む。 岐阜県は日本刀の古くからの五大産地・五箇伝の一つであることもあり,科学的側面から日本刀の特徴を解説する講義を岐阜大学で開講。本内容を中高生向けにアレンジした公開講座を2019年より開講し,2020年からはYouTubeで配信している。2019年より岐阜県関市主宰の刃物セミナー講師,科学雑誌Newtonの日本刀に関する記事の監修などを務めている。 金属を用いた伝統工芸にも関心を持ち,鎚起銅器を加工組織の分析,木目金の製作条件の科学的検討にも取り組んでいる。また,中高生向けのワークショップとして木目金製アクセサリーの製作体験を開講している。
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ギフト
5,000円+システム利用料
お気持ちコース
●お礼メール
●寄附金領収書
※寄附金領収書は2024年4月の日付となり,5月中の送付予定です。
※ 寄附金領収書の宛名はギフトのお届け先として登録されているお名前となります。
●本資金で実施した研究成果の簡易報告書を電子ファイルで送付(研究完了後の2025年5月頃送付予定)
- 申込数
- 13
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2025年5月
10,000円+システム利用料
【スタンダードコース】研究成果の報告 + ホームページ内へご芳名掲載
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●本資金で実施した研究成果の報告書を電子ファイルで送付(研究完了後の2025年5月頃送付予定)
●岐阜大学クラウドファンディングホームページ内へご芳名掲載(希望制)
- 申込数
- 46
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2025年5月
5,000円+システム利用料
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- 2025年5月
プロフィール
2017年10月より岐阜大学 教育学部技術教育講座・准教授。金属材料に関する研究室を主宰。専門は材料強度学となり,主に鉄鋼材料の変形や破壊の評価などに取り組む。 岐阜県は日本刀の古くからの五大産地・五箇伝の一つであることもあり,科学的側面から日本刀の特徴を解説する講義を岐阜大学で開講。本内容を中高生向けにアレンジした公開講座を2019年より開講し,2020年からはYouTubeで配信している。2019年より岐阜県関市主宰の刃物セミナー講師,科学雑誌Newtonの日本刀に関する記事の監修などを務めている。 金属を用いた伝統工芸にも関心を持ち,鎚起銅器を加工組織の分析,木目金の製作条件の科学的検討にも取り組んでいる。また,中高生向けのワークショップとして木目金製アクセサリーの製作体験を開講している。