盛り場の空地に町の活性化を牽引する語り場=隠れ酒場を建てる

盛り場の空地に町の活性化を牽引する語り場=隠れ酒場を建てる

支援総額

1,003,000

目標金額 650,000円

支援者
73人
募集終了日
2015年12月17日

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2015年11月20日 17:16

6風の物語____毛利さんと土門さん

星の庵 風の色の店主は料理人でも接客のプロでもありません。

どちらかというと、そういう人たちを取材して雑誌等に文章を書いてきた立場の人間なので、同じ土俵で自分が何かできるとは思っていません。

素敵な彼らを尊敬したり憧れたりしてわくわくと記事を書いたりしました。お陰様で料理人さんとか職人さんと知り合う機会は少しだけ人より多かったかもしれません。
 

風の色の店に置かれたもの。壁に掲げられたもの。飲み物。品書き。
こうしたものには何かしら店主の想い出や思い入れが詰まっています。
店主が出逢ったり、体験したり、味わったものの中で、店主が背伸びせずに、身の丈で、自分の言葉で説明できたり、提供できたりするものだけがそこにあります。
 

星の庵 風の色に置かれたり、壁に掲げられているものたちには、なので、店主なりのいくばくかの物語が秘められています。

「これなんですか?」なんて訊かれようものなら、「あ、今訊きましたね? 説明しますよ。いいんですね? 三時間はかかりますよ!」
「あ、じゃあけっこうです(汗)」なんてやりとりをしょっちゅうしています。
 

そんなものたちの中からいくつかをつまんでしばらく書いていきます。

 




 

2000年に自宅の四軒隣の、同じように東京から移り住んできたS氏とたった二人だけで雑誌を創刊しました。

北海道発信の全国誌と意気込んで、取材も写真も文章も編集も営業も二人きりで作った雑誌です。

創刊号で僕(=店主)は「銭湯開始」という記事を書きました。銭湯のガイドではありません。小樽市内の銭湯を三軒選んで(もちろんその湯屋をご紹介はしましたが)、そこのお風呂を利用している人や店を通して「界隈」を紹介したかったのです。

 

今年の三月十八日についに七十四年間の営業の灯を消した潮ノ湯さんには格別の思い入れがありました。


掃除の行き届いた潮ノ湯の清潔なお湯や、昔ながらの銭湯風情のみならず、切り盛りされていた松原さんご夫妻のお人柄が素晴らしかった。


そして毎週日曜日の午後六時半過ぎに潮ノ湯に通っていた、ふたりのお年寄りとご縁をいただきました。

 


毛利さんは当時たしか八十三歳か四歳。モーリ時計店を営む時計職人でした。潮ノ湯まで徒歩二十秒。お店は廃業されましたが今もご健在です。現在は九十代後半のはず。

 

 

土門さんは四つ年下で、モーリ時計店から徒歩一、二分の勝納川沿いに工房兼自宅がある木地挽物職人でした。

 

 

はじめに取材をお願いしにモーリ時計店を訪ねた時、店の壁にずらりと並んだ古い柱時計に目が釘付けになりました。

僕は柱時計フェチともいうべき柱時計好きで、わあ!とかぎゃー!とか言いながら、毛利さんを質問攻めにしました。

取材の申し入れの後にひとしきり時計談義をしての帰り際に、毛利さんが壁からひとつの柱時計を外して「これあげる」と僕に差し出しました。


そ、そんな、初対面の海のものとも山のものとも分からない僕なんかに!と恐縮していると毛利さんはこう言いました。

「なあに、こうやってしばらく言葉を交わしてみれば、だいたいどんな人となりか分かるものさ」

 

すぐお隣の銭湯に出かける際も、ひょいっと首にスカーフを巻くようなダンディな毛利さんに一目惚れした瞬間でした。

 

 


現役で家具のパーツを作っている土門さんは先輩の毛利さんが大好きで、一緒にいるとやたらとテンションが上がります。

 

 

 

 

創刊号の発刊後も僕はこのお二人にご一緒して、日曜夕方の潮ノ湯さんでお二人の背中流しの仲間に入れてもらったりしました。


それから九年ほど経過して、札幌の「オトン」という情報誌で、ふたたびお二人を取材させてもらう機会を得ました。

 


毛利さんは2005年に時計店を廃業、市内の塩谷という所でご長男と同居してご隠居されていました。

土門さんは相変わらず現役を続けられており、久しぶりに工房を訪ねた時も木屑にまみれて僕を迎えてくれました。

 

 


 

土門さんを車に乗せ、塩谷の毛利さんを訪問して、奥様の許可をいただいて毛利さんを連れ出しました。

ご近所の毛利さんともう何年も離れ離れになって、少しかつての元気さを失っていた土門さんは、毛利さんとの再会ですっかりお調子者ぶりを取り戻し、これも数年ぶりの毛利さんとの潮ノ湯を満喫しました。

 

 

 

「いくぞ!」「おう!」

 


威勢良く気合いを入れながら、二人の九十歳の少年が心から嬉しそうに5年以上ぶりの背中の流し合いなのでした。


毛利さんの背中を流し、明るい陽の差し込む湯船に二人浸かってご満悦の土門さん。

それ以前は毎週毎週何十年も続いた習慣でした。

 

 

湯船に浸かって、九十二歳になったばかりの毛利さんが土門さんに。


「あんた、随分としわくちゃになったなあ」


すると、八十九歳目前の土門さんが返す。


「毛利さんは凄いよ。ぜんぜんかわらないね。

 ただ、カラダを覆っているヒフのホリが深くなった!」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2011年正月。土門さんからの年賀状は小樽市内の病院からでした。消印は1月10日。


自分も入院しているのに、毛利さんの消息を気にしていた僕に毛利さん情報を知らせる文面だったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

ご丁寧に病室名まで書いているおちゃめな土門さんの賀状に、これは見舞いに来いってことだな!

 

そう思いながら年明けのバタバタの中、ようやく病院に足を運んだのは1月14日でした。

 

 

 

なんてことだろう。その日の未明、土門さんは急逝されていました。

 

 

 


膝ががくがくしそうな衝撃を受けながら、僕は土門さんの自宅へ向かいましたた。木屑に埋もれた工房には何度もお邪魔していたけれど、自宅に上がらせてもらうのは初めてだったのです。

 

 

奥様とお嬢様に促された入ってすぐの部屋に土門さんは寝かされていました。


僕は、まだお亡くなりになって数時間しか経っていない土門さんのお顔に遅くなった見舞いのお詫びを告げました。
 

その足で潮ノ湯の松原さんを訪ねました。通夜の帰りにも松原家に寄せてもらいました。通夜の晩は悪天候で、いらっしゃると聞いていた(小樽市塩谷から札幌に移っていた)九十四歳の毛利さんの顔は見当たりませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

土門さんは家具を作る職人だけど、子供に木工を教えたり、子供向けの置物や木製の葉書、毎年の絵馬、味のあるキャラクターを作ってはさまざまにプレゼントしていました。

 


僕も生前ずいぶんといろいろな土門さんの作品をいただいたのだけれど、潮ノ湯の松原夫妻はもっともっとたくさんの土門作品を持っていらっしゃいました。

 

 

 


土門さんの通夜の晩、松原夫人から形見分けをひとついただきました。

 

 

 

 

 

それは灯籠のようなオブジェ。

ペットボトルの中にレッシングペーパーを利用した透かし絵が仕込まれており、ロウソクの明かりが透過されて綺麗な上の部分。

そしてそれを支える台が土門さんの木地挽物職人としての本領発揮の意匠が凝らされた木の足でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そいつを改造した行灯が、開業からずっと星の庵 風の色の玄関の足元で母の書を透過しています。

 

カウンターの奥の壁には毛利さんからいただいた柱時計がかかっています。

 

 

 

 


 

毛利さんと土門さんは相棒と居ると化学反応のように輝いていたから、ひとまず柱時計の振り子は止めたままにしてあるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リターン

3,000


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お手軽支援コース

・サンクスレター

支援者
11人
在庫数
制限なし
発送完了予定月
2016年2月

10,000


<自宅で風の色コース>

<自宅で風の色コース>

・サンクスレター
・お店に支援者のお名前を記載させていただきます。
・オリジナル吟醸酒 風の色の贈呈(※ 富良野の名店「くまげら」の森本店主との三十年のご縁で生まれた、店主の醸造プロデュースによる、弊店のみで賞味いただける稀少な吟醸酒です)

支援者
29人
在庫数
制限なし
発送完了予定月
2016年2月

10,000


<風の色満喫コース>

<風の色満喫コース>

・サンクスレター
・お店に支援者のお名前を記載させていただきます。
・お店でのご飲食券4,000円分

支援者
19人
在庫数
制限なし
発送完了予定月
2016年2月

30,000


・サンクスレター
・お店に支援者のお名前を記載させていただきます。
・オリジナル吟醸酒 風の色の2本贈呈(※ 富良野の名店「くまげら」の森本店主との三十年のご縁で生まれた、店主の醸造プロデュースによる、弊店のみで賞味いただける稀少な吟醸酒です)

支援者
15人
在庫数
制限なし
発送完了予定月
2016年2月

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