寄付総額
目標金額 1,500,000円
- 寄付者
- 80人
- 募集終了日
- 2018年12月25日
コラム④ 古墳の中身はどうなっている!? ―後編―
こんにちは!大阪大学考古学研究室です。
この度のプロジェクトでは、多くのご支援をたまわり、誠にありがとうございます。
引き続き、ご支援ならびに情報の拡散をお願いいたします。
さて今回は前回に引き続き、古墳の内部についてご紹介します!
①「家形石棺」の登場
前回のコラムで書きましたように、百舌鳥・古市で巨大古墳が作られた5世紀の古墳において、長持形石棺(ながもちがたせっかん)は、古墳時代社会のランクで言えば最上位の大王やそれとつながるような非常に高い位置にいた人にしか使うことができないものでした。
しかし6世紀頃になると、大きな前方後円墳を築く被葬者から、それほど大きくもない円墳の被葬者まで、かなり広く共通した形態の石の棺を採用するようになります。それが家形石棺(いえがたせっかん)です。
ただし、家形石棺に葬られていたのは、古墳が築かれたそれぞれの地域では、やはりごく一握りの有力者です。
家形石棺は、近畿地方では、播磨の竜山石(たつやまいし)や河内と大和の境の二上山(にじょうさん、ふたかみやま)の石材などを用いて作られました。棺身は直方体、蓋は家の屋根(寄棟、よせむね)のような形を呈することから、この名で呼ばれています。ただ、屋根形とはいっても、縄掛け突起と呼ばれる突出部があるので、あまり家にも見えないようでもあり、その形態の意味は問い直す必要があるかもしれません。
家を模したかどうかはともかくも、この家形石棺には、石の板を複数組み合わせて作るもの(組合式、くみあわせしき)と、ひとつの大きな塊をくりぬいて作るもの(刳抜式、くりぬきしき)の大きく二種類があります。当然ながら、後者の方が、大きな石材が必要で、石を加工するのも大変ですから、特にステータスが高い被葬者の古墳で用いられる傾向があります。
この家形石棺が普及するのは、先に記したように近畿地方では6世紀以降になりますが、その祖形となるものは、すでに5世紀代から用いられています。
古市古墳群の北端に位置する市野山(いちのやま)古墳、允恭天皇陵とされている古墳の周辺には、いくつかの小型古墳、いわゆる陪冢(ばいちょう)があります。その中に含まれる、藤井寺市の長持山(ながもちやま)古墳や唐櫃山(からとやま)古墳では、家形石棺が用いられています。
野中古墳と同じ古市古墳群内にある小規模の古墳でも、野中古墳より新しい5世紀後半頃には、石の棺へと埋葬の施設などが変化していっているようです。
それら長持山古墳などの家形石棺は、6世紀以降のものに比べて、屋根状の蓋の勾配が強いことなどが特徴です。長持山古墳には、2つの家形石棺があり、時期的に古いものと新しいものがあります。その新しい1種が、後の6世紀に一般的になる家形石棺に、系譜としてつながるのではないかとされています。いずれの石棺も、はるばる九州、現在の熊本県から石材が運ばれていたことが知られています。
長持山古墳の家形石棺の複製も含めて、いくつかの種類の家形石棺は、近つ飛鳥博物館に展示をしています。詳しくは、以下を参照ください。
http://www.chikatsu-asuka.jp/?s=exhibition/zone2
この近つ飛鳥博物館では、大仙陵古墳、仁徳天皇陵とされる古墳の大型復元模型や、数々の埴輪なども展示されているので、ぜひともゆっくりとご観覧ください。ちなみに、野中古墳の出土品などの複製も並べられています。現在、野中古墳の出土品をみることができるのは、この博物館の複製が唯一です…。ぜひとも阪大で現物展示をしたいところですし、せめてもの3D作成を願うところです。
話はややそれましたので、話を戻します。近畿地方では古市古墳群などで、すでに5世紀から確認できますが、やはり限られた古墳で採用されていました。6世紀になると、やはり継体大王の墓であることが有力視されている、大阪府高槻市の今城塚(いましろづか)古墳でも、破片とはなっていますが、家形石棺が用いられています。
しかも九州、熊本県の馬門(まかど)石、さらには、さきにも触れた兵庫県の竜山石(たつやまいし)や大阪と奈良の境界の二上山白石という3種の石棺が発見されています。継体大王の墓の3つの石の棺に誰が葬られているのか、謎はいまだ解き明かされていません。
今城塚古墳は復元整備されていますし、その横に博物館(今城塚古代歴史館)もあるので、ぜひ後期の大王の古墳を体感してほしいと思います。詳しくは、
http://www.city.takatsuki.osaka.jp/m/rekishi_kanko/rekishi/rekishikan/shisetsu/1331883966934.html
このように、6世紀には、大王陵でも用いられるようになる家形石棺ですが、次第に小さな古墳でも、家形石棺が用いられるようになります。小古墳でも同じ種類の石の棺を用いるという状況は、5世紀までのように棺の種類が階層により制限されていた状況とは大きく異なるといえそうです。
②「横穴式石室」と葬制の大変革
前回のコラムで、長持形石棺は竪穴式石室におさめられていたことを記しましたが、先にあげた長持山古墳のように、5世紀の古式の家形石棺もやはり竪穴式石室内に置かれていたようです。ところが、今城塚古墳のような6世紀の家形石棺は、横穴式石室の内部におさめられました。
では、この横穴式石室は従来の竪穴式石室とどのような違いをもつのでしょうか?
棺をおさめる施設は、3世紀から5世紀までは基本的に、「竪穴式石室」など地面を垂直に掘り込んだものでした。この施設は、棺をおさめたあとは巨大な天井石で封印され、二度と開けられることがない構造でした。
ところが6世紀になると、出入りできる通路(羨道)をもつ「横穴式石室」が爆発的に増加します。家形石棺と同様、大王クラスから村長クラスの人まで、幅広い階層の人々に採用されました。
ここでも付け加えておくべきなのは、この横穴式石室はすでに九州では早くに始まりますが、やはり5世紀代に近畿地方でも採用が始まっていることです。
例えば、古市古墳群に含まる5世紀後半の円墳、藤井寺市野中にあった藤の森古墳では、近畿での初期の横穴式石室が見つかっています。このように、古市古墳群の小古墳で、すでに採用されていた家形石棺や横穴式石室が、後の時代の主流になっていくことになるのです。
6世紀に広まる、この横穴式石室において重要なのは、実は、「羨道を持つ」ことです。
羨道により何度でも出入りができるようになったため、一つの石室の中に何度も棺を追加して納めることができるようになりました。こうした行為を「追葬」と呼びます。
追葬の時には石室の中、いわば「死の世界」に足を踏み入れることになります。こうした経験は当時の人々の死生観にも大きな変化をもたらしたと考えられています。竪穴式石室に慣れ親しんだ人からすれば、とても恐ろしい体験だったかもしれません。いかに死と向き合うか、現在社会においても続くような課題もみえかくれしそうです。
③古墳の中身はうつりかわる
このように古墳の内部構造は、時とともに変化していったのです。これと同時に、副葬に供されるものも、青銅鏡から鉄製甲冑、金銅製の馬具など次々と変化していきました。こうした副葬品のうつりかわりを精密にたどり、その変化の意味を探ることは古墳時代研究の大きなトピックの一つとなっています。
今回も少し長くなりましたが、次回は、こうした副葬品にスポットをあててみたいと思います!
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